弁護士法第72条には、以下のように規定があります。
弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
行政書士をはじめとする他士業でも、必ず知っておかなければならない重要な条文ですね。
しかし、この条項に反するような事例として、行政書士が代理人として『紛争状態の』相手方と示談交渉を行う、といったことで懲戒や刑事事件に至るケースも少なくないのです。
法律事件の線引きは少し難しいところですが
例えば遺産分割協議や交通事故の示談交渉といった場に行政書士が立ち会う、あるいは代理人として契約を締結する、といったことはどうでしょうか。
これについては、行政書士法の法定業務(書類の作成など)は当然行うことができます。
さらに民法第643条に定められている契約代理の委任契約を結ぶことで、民法第104条に規定されている任意代理人として契約の合意形成を行うことも可能となります。
なおこの任意代理に関しては民法第648条に規定がありますが、報酬をもらっても問題ないのです。
つまり行政書士であっても業として契約締結の代理人となることは可能です。
ただし相手方が自分の過失を認めていないような場合などには、弁護士法第72条でいうところの法律事件に該当してしまいます。
こうしたケースでは行政書士が代理人として相手方と契約を締結することはできなくなるのです。
手の引きどころを見極めるのが難しければ受任しない
もっとも遺産分割協議や交通事故の示談交渉で専門家に依頼するというケースでは、少しくらいお互いの主張が対立することも多いものです。
このあたりはいわゆる『グレーゾーン』ではあるのですが、一応の目安としては『双方が何やらモメはじめたら手を引く』というのが安心でしょう。
こちらから弁護士と同じ土俵に上がる必要はないのです。
新人行政書士の方はこのあたりの見極め、手の引きどころが難しいかもしれません。
目安の線引きとしては事前相談の段階で、これはどうも先々モメそうだなと思ったら、やはり最初から受任は避けた方が無難だと思います。
しっかりと法武装したうえで自分の身は自分で守らないと、誰も助けてくれません。
弁護士からのクレームに対応するには
特に法務系の仕事をしていると時々、弁護士からクレームが入ることがあります。
よくあるのは前述の『あんたのやってる仕事は弁護士法72条に反するものだ』という内容です。
しかしきちんと自分の仕事に関する法律を読み込んで理解していれば、こうしたクレームにも冷静に対処できるようになります。
内容証明の作成代理などに関することなどでよくあるのですが、行政書士が代理人として内容証明を送り付けるのは弁護士法違反なのではないか、というクレームです。
そういう場合には『行政書士法第1条の3第2項を読んでください』と一言いえば問題ありません。
こういう弁護士さんは、おそらく行政書士法など読まないのでしょう。
ただし本当に弁護士法に違反しているような行為があれば、それはシャレにならない大問題です。
前述のとおり懲戒処分ばかりではなく、場合によっては刑事事件にも発展しかねません。
違法行為というのは知らなかったでは済みませんので。
まして仮にも専門家を名乗っている行政書士であればなおさらです。
行政書士の仕事も法律を意識しなければなりません
こうした問題にうまく対処できるかどうかのポイントは、自分の行っている業務は、どの法律に基づいて遂行しているのか、ということを普段からよく意識することです。
特に法務系の仕事については、他士業との業際問題というのが常につきまといます。


ですから、せめて自分がメインに据えようとしている業務に関しては関連条文をよく読み込んだうえで、その業務を遂行している根拠をきちんと説明できるようにしておかなければなりません。
行政書士も法律専門職を名乗る以上、やはり法律の理解というのが必要なのです。
許認可の仕事にしても法務系の仕事にしても、とにかく大事なのは法的な根拠をきちんと頭に入れておくことです。
弁護士などからの理不尽なクレームにもしっかり対応できるよう、こちらもきちんと法武装しておきましょう。
他士業との良好な関係をしっかりと築いておく
だからといって別に弁護士さんを敵視する必要はありません。
法律で業際が存在する以上は、同じ土俵で勝負するのは避けましょう、ということです。
私自身は、とてもよい関係を築いている弁護士さんもたくさんいますし、ちゃんと行政書士の仕事を理解している方が大多数です。念のため。
こうした業際問題で困らないようにするためには、やはり弁護士をはじめとする他士業との密な人脈があれば安心です。
安心して仕事をするためには信頼できるよい弁護士さんをはじめ、他士業の方と良好な関係を築いておくことも大事でしょう。